広瀬友紀『ことばと算数 その間違いにはワケがある』

見えてくる、言葉と算数の共通点と相違点

この本を読んで良かったのが、言葉と算数の共通点や相違点を、これまでより大きな視点で捉え直すことができたこと。例えば第1章では、四則演算の結合法則や分配法則が、「迷子になった選手の愛犬」「ブラジル及びドイツに勝つ」などと比較されている。一方第4章では、「1+1=1」という記法と「1と1を足す」という言語表現の間にどういう関係があるか考察される。どちらも「記号」といえば記号の数学の言葉と日常言語の共通点や相違点、なかなか興味深い。さらに第6章でも、「マイナスのマイナス」と言語の二重否定表現がからめられている。こんなふうに、算数の話が言語の話をするマクラになっている感もあるのだけど、日常使い慣れた言葉について、数式と比較しながら改めて見直せるのはとても面白い。

正三角形は二等辺三角形

日常の言葉と算数の言葉をめぐる話題の中で、個人的に一番面白かったのは、『子どもに学ぶ言葉の認知科学」でも少し書かれていた「正三角形は二等辺三角形に入るのか?」という話だった。というのも、僕も昔は「定義上、入るに決まってるじゃん」と思って、それをはっきりさせない小学校の指導に「仕方ないなあ…」くらいに思っていた節があるからだ。でも、本書の第3章を読むと、そういう自分の浅慮を恥じるしかないのである。

ポイントは、グライスの会話の公理や、「語彙獲得バイアス」の一つである「相互排他性バイアス」である。面白いところなので詳しくは本書を読んでほしいのだけど、要するに「正三角形と二等辺三角形は別もの」と認識する方が、もともと人間には合理的なのである。「正三角形は二等辺三角形の一部」という算数的な「正しさ」は、子どもにとっては全く自然ではない。そこをどう埋めるのかという教科書会社の苦心、読んでいて、算数の教科書を作るのも大変なんだなあ…としみじみ思ってしまった。

ちなみにこの語彙獲得バイアス、他には「事物全体バイアス」「事物カテゴリーバイアス」「形状類似バイアス」などがあるそう。このへんの話も深掘りすると面白そう。

他では、僕も油断すると混乱してしまう「かける数」と「かけられる数」という言葉など、本書では算数に関連する言葉の話題が豊富。『ちいさい言語学者の冒険』から一貫する「間違いにこそ子どもの論理がある」姿勢もあって、気軽に楽しめる読み物になっている。算数にも国語にも関わる小学校の先生はもちろん、普通の国語教師の人にもおすすめしたい1冊だ。

さて、今井本に広瀬本と、ここまで2冊読んできた「言葉と算数」本、せっかくなので夏休みにもう1冊、よく引用されている谷口隆『子どもの算数、なんでそうなる?』も読んでみようと思います。さてさて、どんな感じが楽しみ。